「脱炭素」という言葉がビジネスの最前線で語られるようになった昨今、環境問題への対応はもはや大企業だけの課題ではなくなりました。
中小企業にとっても、顧客や取引先、あるいは自治体や地域住民との信頼関係を築くうえで、「環境への配慮」は極めて重要な評価軸の一つになりつつあります。
しかし、インターネットやSNS、メディア報道にはさまざまな情報が氾濫しており、それらの中には真偽の判別が難しい“フェイク情報”も少なくありません。
こうした状況下で、「脱炭素経営に取り組みたいが、何が本当で何が嘘か分からず、踏み出せない」と感じる中小企業の経営者も多いのではないでしょうか。
本稿では、環境と広報の視点から、中小企業が“情報戦”の時代において脱炭素経営を進めるために必要な視座と実践方法について考察します。
1. 「流行」ではなく「地球の健康」を考える
「カーボンニュートラル」「ゼロエミッション」「SDGs」──こうしたキーワードは、テレビ番組や広告、セミナーなどで頻繁に登場し、一種の“トレンドワード”のように扱われがちです。しかし、気候変動の本質は、そうした流行的な現象ではなく、地球環境そのものの持続可能性に関わる危機です。
ここで注意すべきは、こうしたブームに乗る形で流布される“断定的”な情報の数々です。
たとえば、
- 「この装置を導入すれば、CO₂をゼロにできる」
- 「◯◯電力を使えば、環境対策は完璧」
- 「ESG対策として、この認証を取るだけで十分」
こうしたシンプルな表現は一見魅力的ですが、科学的根拠に乏しい、あるいは誤解を招くリスクがあります。複雑で長期的な課題を、“魔法の杖”のような対策で解決できるかのように語る手法は、脱炭素の本質を歪めかねません。
政府もこの課題に対応しようとしています。2025年6月20日、環境省は「気候変動の科学的知見」という特設サイトを開設し、フェイク情報の拡散防止に本格的に取り組み始めました。
▶︎ 気候変動の科学的知見(環境省)
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/knowledge.html
このサイトでは、国際的な学術論文やIPCC(気候変動に関する政府間パネル)報告書など、科学的根拠に基づいた情報をわかりやすく整理し、ビジネス関係者や教育関係者向けの解説も充実しています。
ただし注意点として、「フェイクに注意」と言っている側も、恣意的に情報を取捨選択している場合があるという指摘もあります。
つまり、情報を一元的に「正・誤」で判断せず、複数の信頼できるソースから検討する習慣が必要です。
2. 情報を見極める「知識」という防具
フェイクに惑わされないために、経営者にとって最も重要なのは「基礎的な環境知識」です。
知識があれば、過度に恐れることなく、現実的な判断ができるからです。
では、何を情報源とすべきか。
たとえば以下のようなものが信頼できる一次情報源となります:
- 環境省・経済産業省・資源エネルギー庁などの政府機関の資料
- 大学・研究機関の発信する論文や報告書
- 国際機関(IPCC、UNEP、IEA等)のレポート
これらは、多くの専門家による検証を経て発信されているため、信頼性が高く、経営判断の指針となる情報が豊富です。
ただし、理解度が浅い段階で専門的な資料を読み込もうとしても、実務への活用は難しいかもしれません。
段階的にステージを上げていくことが肝要です。まずは「環境省のパンフレット」や「地方自治体の事業者向け環境セミナー」など、やさしく解説された入り口から始めるとよいでしょう。
理解が深まれば、やがて国際レベルの知見(例:IPCC第6次報告書)などにも触れ、自社の経営における脱炭素の方向性が見えてくるはずです。
情報の取捨選択に迷う時間を最小化し、正しい知識に基づく“行動の量”を増やすことが、環境問題を経営に活かす最大のポイントなのです。