環境問題は、脱炭素だけではない
私の専門は脱炭素です。カーボンニュートラルをテーマにした研修を日本全国で行ってきました。しかし、環境問題はそれだけではありません。
今回は、脱炭素とは少し違う角度から、もうひとつの環境課題についてお話しします。それが生物多様性です。
世界経済フォーラムが毎年発表する「グローバルリスク報告書2025」では、今後10年間で最も深刻なリスクとして「異常気象」に次いで「生物多様性の喪失と生態系の崩壊」が第2位にランクインしています。気候変動と生物多様性の損失は、もはや切り離せない2つの危機として認識されているのです。 (出典:世界経済フォーラム「グローバルリスク報告書2025」)
「生物多様性」とは何か、なぜ必要なのか

生物多様性とは、地球上に存在する多様な生き物と、それらが作り出す生態系のつながりのことです。植物、動物、微生物、そして人間を含むすべての生き物が複雑なネットワークを形成し、互いに支え合っています。
なぜこれが重要なのか。理由はシンプルです。私たちの経済活動は、自然の恵みなしには成立しないからです。
食料・水・空気・医薬品の原料・素材……企業が使うあらゆる資源は、生態系から生まれています。WWFの「生きている地球レポート2024」によれば、1970年から2020年の間に、脊椎動物種の個体群の大きさは平均で73%縮小しています。この速度でいけば、私たちが「当たり前」として使ってきた自然の恵みが失われていく可能性があります。 (出典:WWFジャパン「生きている地球レポート2024」)
これは「遠い国の話」ではない
「でも、それは熱帯雨林や希少動物の話では?」と感じる方もいるかもしれません。
違います。これは今、あなたの働く企業と直結した話です。
2022年に採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組(KMGBF)」では、2030年までに陸と海の30%を保護区に設定する「30by30」目標が国際合意されました。日本政府もこの目標を受け、「自然共生サイト」認定制度を立ち上げ、2025年には全国で569か所が認定されています。 (出典:環境省 北海道地方環境事務所「生物多様性」)
さらに、気候変動における「TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)」と同様に、自然に関する財務情報の開示を求める「TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)」のフレームワークが2023年に公表されました。大企業を中心に、自然資本への依存とリスクを開示する動きが始まっています。
取引先がTNFD対応を進めれば、サプライチェーン上の企業にも生物多様性への対応が求められる時代が来ます。これは遠い未来の話ではありません。
良いニュース:世界に誇れる場所が、日本にある

ここで、少し視点を変えましょう。
課題と危機の話ばかりでは、人は動けません。大切なのは「私たちにはすでに宝がある」という事実です。
滋賀県。日本の中央に位置するこの県は、生物多様性の観点から世界的に高く評価されている地域のひとつです。
琵琶湖は、約400万年前に形成されたとされる世界有数の古代湖です。約600種の動物、約500種の植物が生息し、魚類16種・淡水貝類約30種が固有種として生息しています。この生物多様性の豊かさが認められ、1993年にラムサール条約湿地に登録されました。 (出典:滋賀県「ラムサール条約湿地~琵琶湖~」)
そして2026年6月、国際環境NGOのWWFジャパンが滋賀県の取り組みを「ネイチャーポジティブの先進的な実践事例」として取り上げました。滋賀県では、企業・金融機関・農業・研究機関・地域住民という多様な主体をつなぎながら、生物多様性保全を「地域の仕組み」として実装する挑戦が進められています。WWFはこれを「全国の自治体にとっても多くの示唆を与える先進事例」と評価しています。 (出典:WWFジャパン「生物多様性保全を『地域の仕組み』に変える――滋賀県が進めるネイチャーポジティブの実践」)
あなたの会社が「すでに持っている」財産
ここで、研修担当者の方に考えていただきたいことがあります。
滋賀の琵琶湖は、特定の誰かが新たに作ったものではありません。長い年月をかけて育まれ、地域の人々が守り続けてきたものです。それが今、世界の評価を受けています。
企業も同じです。長年の事業活動の中で、気づかないうちに「自然と共存する仕組み」を持っていたり、地域の生態系と関わりながら事業を営んでいたりすることがあります。それは、まだ「財産」として言語化されていないだけかもしれません。
生物多様性という視点を持つことで、社員は自社の事業と自然のつながりを新たな目で見ることができるようになります。「私たちはどこから原材料を調達しているのか」「その地域の生態系と、自社はどんな関係にあるのか」という問いが、次世代の経営課題への備えになります。
研修でこそ、この視点を育てられる
脱炭素・カーボンニュートラルの次に来る経営課題として、生物多様性はすでに動き始めています。しかし、多くの社員にとってこのテーマは「難しそう」「遠い話」に見えます。
研修の場で「滋賀という身近な場所が世界に誇れる生物多様性の宝庫である」という事実から入ることで、環境問題は一気に「自分事」になります。知識を詰め込む前に、「自分たちの足元にある財産」を発見する体験が、社員の当事者意識を変えます。
株式会社ジョブオールでは、こうした視点を組み込んだ体験型の研修を提供しています。まずはお気軽にご相談ください。
参考一次情報
- WWFジャパン「生物多様性保全を『地域の仕組み』に変える――滋賀県が進めるネイチャーポジティブの実践」
- 滋賀県「ラムサール条約湿地~琵琶湖~」
- 環境省「琵琶湖水鳥・湿地センター」
- 環境省 北海道地方環境事務所「生物多様性(自然共生サイト認定状況)」
- WWFジャパン「生きている地球レポート2024」
よくある質問
Q1. 生物多様性とカーボンニュートラルは、別々に取り組む必要がありますか?
A. 関連しています。森林の保全は生物多様性の維持と同時にCO2の吸収源にもなります。欧州では脱炭素と自然保護を統合した政策(EU自然回復法など)が進んでおり、企業の対応もセットで求められる方向に動いています。
Q2. TNFDとはどんな制度ですか?企業はいつ対応が必要になりますか?
A. TNFDは自然関連のリスクと機会を財務情報として開示するフレームワークで、2023年9月に最終提言が公表されました。TCFDと同様に、まず大企業から開示が求められ、サプライチェーンを通じて中堅・中小企業にも波及することが想定されます。
Q3. 生物多様性をテーマにした研修は、どんな社員に向いていますか?
A. ESG・サステナビリティ推進部門はもちろん、調達・製造・営業など自然資本と関わる可能性のある部門の社員に適しています。脱炭素と合わせて学ぶことで、環境経営の全体像を理解できます。
Q4. 琵琶湖や滋賀を事例に出す研修は、滋賀県外の企業でも意味がありますか?
A. むしろ地域外の受講者にこそ刺さります。「日本のどこかにある話」を身近に感じさせるのが、滋賀の事例の強みです。自分たちの地域にも同様の財産があることに気づくきっかけになります。
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