「誰が言ったかわからない」ことが、この言葉の本質を表している
“Think Globally, Act Locally.”
日本語に訳せば「地球規模で考え、足元から行動せよ」。環境問題の世界でこれほど広く知られたフレーズはないといっても過言ではありません。
しかし、この言葉には奇妙な特徴があります。誰が言い始めたのか、世界的に「不明・論争中」のままなのです。
候補として挙げられているのは、スコットランドの都市計画家パトリック・ゲデス、環境活動家のデビッド・ブラワー、微生物学者のルネ・デュボス、未来学者のヘイゼル・ヘンダーソンなど複数の人物です。決定的な一次情報は存在しません。
この「誰が言ったかわからない」という事実そのものが、実はこの言葉の本質を表しています。特定の誰かが発明したのではなく、時代と社会の必要性が生み出した言葉だからこそ、国境を越えて人々の心に根づいたのです。
概念の起源:1915年の都市計画から始まった
この言葉の思想的な起源は、1960〜70年代の環境運動よりもはるか前にさかのぼります。
スコットランドの生物学者・都市計画家パトリック・ゲデス(Patrick Geddes、1854-1932)は、1915年の著書『Cities in Evolution(進化する都市)』の中で、都市計画において「地域の固有性は、全体環境をきちんと把握した上でこそ生まれる」という考え方を示しました。”Think Global, Act Local” というフレーズの原型、そして「地球規模で理解し、地域に即して行動する」という概念は、すでにここにあったとされています。この思想が約半世紀の時を経て、1970年代の環境危機という時代の要請と結びつき、副詞形(Globally, Locally)へとアレンジされながら、世界を動かす標語として定着していったのです。

1970年代の環境運動で世界に伝播した
1960〜70年代、戦後の急速な経済成長により、先進工業国では大気汚染・水質汚濁・廃棄物問題が深刻化していました。日本でも四大公害病(水俣病・イタイイタイ病・四日市ぜんそく・新潟水俣病)が社会問題化したのはこの時代です。
こうした中、1972年6月5日から16日まで、スウェーデンのストックホルムで歴史的な会議が開かれました。国連人間環境会議(ストックホルム会議)です。環境問題を扱う初めての大規模な政府間国際会議であり、113カ国が参加しました。
スローガンは「かけがえのない地球(Only One Earth)」。この会議で「人間環境宣言」が採択され、国連環境計画(UNEP)の設立も決定されました。現在の「世界環境の日(6月5日)」は、この会議の開幕日にちなんでいます。 (出典:環境省「人間環境宣言(ストックホルム会議:1972年)」)
この会議でアドバイザーを務めたルネ・デュボス(René Dubos、1901-1982)は、1970年代後半にこのフレーズを好んで使い、広める大きな役割を果たした人物です。会議に合わせてバーバラ・ウォードとルネ・デュボスが共同執筆した「かけがえのない地球」(Only One Earth)という書籍も、この思想を世界に広げました。
重要なのは、「デュボスがこの言葉を作った」のではなく、「この言葉が必要とされる時代に、デュボスをはじめとする複数の先駆者たちが同時多発的にこの考え方を叫び、世界に伝播させた」という点です。だからこそ、特定の誰か一人の所有物にならず、人類共通の標語になりました。
「グローカル」という関連語について
この言葉と混同されやすいのが「グローカル(Glocal)」という言葉です。
「グローカル」は1980年代に日本の経済界が「現地の文化に適応しながら世界展開する」という意味で使い始めたビジネス用語が起源とされており、その後に社会学者のローランド・ロバートソンらが学術的に広めました。「Think Globally, Act Locally」と通底する精神は共有していますが、「この環境標語から直接生まれた言葉」ではなく、別の文脈から発展した概念です。
現在では両者は混在して使われることが多く、外務省も2009年に「グローカル外交ネット」を立ち上げるなど、外交・地方創生・教育など幅広い分野で定着しています。(※外務省の表記では「グローバルに考え、ローカルに行動する」という日本語表現が使われています) (出典:外務省「グローバルに考え、ローカルに行動する」)
今日、どんな場面で使われているか
この言葉は環境問題の枠を超え、現在ではさまざまな文脈で使われています。
環境・脱炭素分野:カーボンニュートラル・SDGs・ESGの推進において、「地球全体の目標を理解しながら、自社・自部門で何ができるか」を考える姿勢として引用されます。
地方創生・地域移住:インターネットでグローバルに情報を得ながら、地元のコミュニティや店舗と繋がるという考え方として使われています。
教育・人材育成:グローバル人材育成の文脈で、世界的な視野と地域への貢献を両立させる人間像を示す言葉として使われます。
企業のサステナビリティ戦略:本社の方針と現地の文化・環境に合わせた実践をいかに両立させるか、という経営課題の文脈でも登場します。
この言葉が研修で大切な理由
私がこの言葉を研修で大切にしているのには、理由があります。
環境問題は「大きすぎて自分には関係ない」と感じやすいテーマです。気候変動、生物多様性の喪失、海洋プラスチック──どれも地球規模の問題であり、個人や一企業の力では何も変えられないように見える。
しかし、”Think Globally, Act Locally”は、その感覚を反転させます。
地球全体を理解することは、行動を諦める理由ではなく、行動を始める出発点だ──というメッセージです。
グローバルに考えることで、自分の仕事・自分の部門・自分の会社がどこに位置しているかが見えてくる。そしてそこから、「では自分は何をするか」という問いが生まれる。
この言葉の出典が「不明」であることも、実はこのメッセージと重なります。1915年のゲデスから1970年代のデュボスたちへ、そして今この記事を読んでいるあなたへ──誰か特定の偉人だけが言える言葉ではなく、あなた自身も今日からこの言葉の実践者になれるのです。
よくある質問
Q1. 「Think Globally, Act Locally」は誰の言葉ですか?
A. 明確な出典は世界的に「不明・論争中」です。概念の原型は1915年の都市計画家パトリック・ゲデスにあるとされ、1970年代にルネ・デュボス、デビッド・ブラワー、ヘイゼル・ヘンダーソンなど複数の先駆者たちが環境問題の標語として広めました。特定の一人の言葉ではなく、時代の要請が生み出した言葉です。
Q2. 「グローカル」は「Think Globally, Act Locally」から生まれた言葉ですか?
A. 直接の派生語ではありません。「グローカル(Glocal)」は1980年代に日本の経済界が「現地化しながら世界展開する」という意味で使い始めたビジネス用語が起源とされています。「Think Globally, Act Locally」と精神的に通底しますが、別の文脈から生まれた言葉です。
Q3. この言葉は、企業の脱炭素推進にどう活かせますか?
A. カーボンニュートラルという地球規模の目標を「自社・自部門で何ができるか」という具体的な行動に落とし込む考え方として活用できます。Scope1〜3の整理や社内の削減目標設定など、グローバルな目標をローカルな実践に変換するプロセスそのものが、この言葉の実践です。
Q4. 研修でこの言葉をどう活用すればよいですか?
A. 「あなたの会社は地球の問題のどこに関わっているか」を考えさせる問いの導入として使うと効果的です。グローバルな環境問題を「自分の仕事との接点」で捉え直すきっかけになります。知識を教える前に、この言葉で当事者意識を引き出すことが、研修設計の重要なポイントです。
大手企業が選ぶ
脱炭素カードゲーム研修